慢性閉塞性肺疾患(COPD)について Q&A
用語
- COPDとは
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慢性閉塞性肺疾患は英語のChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの頭文字をとってCOPDといいますが、まだまだ聞きなれない病名だと思います。病気としては慢性気管支炎と肺気腫の2つの疾患をさします。COPDの特徴は、長年喫煙している人に多く、肺への空気の出し入れが慢性的に悪くなり、ゆっくりと悪化していく病気です。
原因
- 原因はタバコということでしょうか
- はい、COPDは別名タバコ病と言われるとおり主な原因はタバコです。他には大気汚染や職業的な塵埃や化学物質も原因になります。
病態
- タバコは肺や気管支にどういう影響があるのでしょうか
- タバコには200種類もの有害物質が含まれているといわれますが、これらを吸い込むことによって、特に肺の奥の末梢気道に炎症が起こり、細気管支や肺胞という部分にダメージが起こります。これが長年にわたると、末梢気道の空気の流れが悪くなったり、肺胞が壊れたりして肺の働きが落ちてしまいます。
- タバコの有害物質はどうして肺にダメージを与えてしまうのでしょうか。
- タバコの煙は燃焼ガスですから、公害の元とされている窒素酸化物やダイオキシンあるいは発がん物質を含む微粒子などの猛毒物質も含まれています。こういった有毒物質は肺の末梢気道の粘膜を刺激し炎症を引き起こし、さらに有害物質を処理するために動員された白血球から放出される蛋白分解酵素や活性酸素が肺組織を破壊してしまいます。
- 喫煙を続けていると必ず起こってくる病気なのでしょうか。
- タバコを吸えば、多かれ少なかれ前述の末梢気道の炎症が起こるわけですが、炎症の強さや炎症で生じた蛋白分解酵素と活性酸素を取り除く能力には遺伝や体質による個人差がありますから、タバコを吸い続けるとCOPDが必発というわけではありません。しかし、ヘビースモーカーほどリクスが高い病気には違いありません。
統計・疫学
- 有病率は
- 2001年に発表された大規模疫学調査研究の結果では、COPDの有病率は40歳以上の8.5%と、諸外国と同じく高いことがわかりました。これまで日本ではCOPDは少ないと考えられていましたが、実際には多くの患者さんがいるのにきちんと診断を受けていないという実態が浮き彫りにされました。
- 増加傾向ですか
- 同じ調査では日本には約530万人の患者さんがいると推定されました。しかし、このうち病院でしっかりと診断を受け治療を受けている方は、20万人強とごくわずかです。日本ではがんの中でタバコの関与が大きい肺がんがトップですが、高い喫煙率を背景に今後、COPDの患者さんが増えてくると考えられています。
- 死因としては
- 病気が進行し肺への空気の出入りが悪くなりガス交換がうまく行われなくなると、低酸素と高炭酸ガス血症におちいり呼吸不全が死因として多くなります。このほか、心不全や肺炎を併発して死因となることがあります。近年、COPDは死因として増加傾向にあり、近い将来、がんや虚血性心疾患、脳卒中に次いで4番目の死因にランクされると予想されています。
症状
- 症状は早くから現れるのでしょうか
- いいえ、初期の段階では、咳や痰も軽く、息切れもあまり現れません。風邪をひきやすいとか風邪をひくと、咳や痰が長引くといったあまり気づかれにくい症状から始まります。肺のダメージが進んでくると、肺機能が徐々に低下し、労作時とくに坂や階段での息切れが現れてきます。
- 病気が進行するとどんな症状が現れますか
- 平地の歩行でも息切れのため立ち止まったり、呼気の際に気道が虚脱するのを防ぐために口すぼめ呼吸になったりします。スポーツのときのような胸式呼吸が多くなり、呼吸運動にエネルギーをたくさん使うため、やせてくる方が多くみられます。また心臓から肺への血流が悪くなり、静脈の拡張や下肢のむくみが現れることもあります。
- 早期発見のチェック項目は
- 40歳以上の喫煙者で、風邪をひいていいなのに咳や痰が長びく場合や同世代の人と比べて息切れしやすい場合は、呼吸器科を受診してみて下さい。単なる胸のレントゲン検査では見つからない場合が多いため、早期発見のためのスパイロ検査という呼吸機能検査が必要です。
検査・診断
- 検査ではどういう異常が見られるのでしょうか。
- 早期発見のためのスパイロ検査は肺活量と、息を吐くときの空気の通りやすさを調べる検査です。COPDでは、一秒間で一気に息を吐きだすことのできる量すなわち一秒量が低下してきます。努力肺活量に対し一秒量が70%以下の量に低下すると、COPDと考えられます。
- 他にはどのような検査がありますか。
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スパイロ検査で異常が見られたら、さらに画像診断を行います。胸部レントゲン検査では、肺が膨らみ加減となり、X線透過性がよくなるため、肺全体的に黒っぽく写ります。胸部CT検査とくに最新のマルチスライスCTを行うと、細気管支や肺胞などの微細な構造まで写し出され、確実に診断することができます。
その他、肺の働きや他臓器への影響をチェックするために、動脈血ガス分析、酸素飽和度、心電図、心および腹部超音波検査などを行います。
治療
- COPDと診断されたらどういった管理が必要ですか。
- COPDの重症度別に管理の仕方が異なります。これはWHOなどで決められた、GOLDというガイドラインにしたがって行われます。画像診断でも異常の現れない、スパイロ検査のみの異常というごく初期の段階では、治療は禁煙のみで済みます。この段階では、慢性炎症の原因を断ち切れば、肺のダメージは十分元に戻ると考えられています。
- 禁煙は簡単にできるのでしょうか。
- COPDの患者さんは長年の喫煙歴があるため、ニコチン依存症の状態となっており、簡単には禁煙できなくなっています。しかし、COPDが禁煙の動機付けとなって、今まで以上に禁煙に取り組む姿勢が出てきます。これに後押しする形で、禁煙補助薬を使用すると、禁煙の成功率はさらにアップされるでしょう。
- 禁煙補助薬は健康保険がきくのでしょうか。
- 2006年6月より禁煙診療は保険適用となり、認可を受けたクリニックや病院で処方を受けることができるようになっています。
- 病気が進むとお薬などが必要となるのでしょうか。
- はい、慢性的な咳や痰があれば、気管支拡張薬や去痰薬が必要になります。COPDの基本病態は末梢気道が炎症や分泌物で狭くなり、空気の出し入れが悪くなることですから、作用機序の異なる何種類かの気管支拡張薬や去痰薬を内服薬や吸入薬として併用することで効果が得られます。
- さらに病気が進み、合併症が現れた場合はどうするのでしょうか。
- 末梢気道や肺胞が炎症の繰り返しにより破壊されると、空気の出入りが著しく悪くなり、基本的なガス交換機能も損なわれます。この段階になると、低酸素のため安静時でも息切れが現れます。この機能低下を補うために酸素吸入が必要となります。また、肺の免疫能も低下し、感染症を併発しやすくなるため、インフルエンザウイルスワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種や抗菌薬が必要となります。肋間筋などの呼吸筋疲労でとくに夜間に低酸素や呼吸不全が悪化する場合、補助換気装置や人工呼吸器が必要となる場合もあります。また肺性心から心不全を併発した場合は、強心利尿薬が必要となります。
- 酸素吸入は入院しなければならないのでしょうか。
- いいえ、低酸素があっても病状が落ち着いていれば、在宅酸素療法が可能です。酸素濃縮器や酸素ボンベをご自宅に設置し、酸素吸入を行います。外出の際は、携帯用の酸素ボンベを使用します。また、一度呼吸不全におちいった後などは、特に夜間睡眠時に呼吸不全が悪化したり、心不全を併発したりすることがあるため、睡眠中のみ鼻マスクによるNPPVという補助換気装置を併用する場合もあります。
- これ以外の治療法はありますか。
- COPDの患者さんは、全身の酸素不足を心拍数増加でカバーするのと同様に、呼吸回数を増やすために、COPDには不向きな胸式呼吸を多く行っています。胸式呼吸は呼吸筋疲労を起こすばかりか、末梢気道や肺胞にピストン状に空気を送り込み、空気の捉えこみを起こし病気自体を悪化させます。これを防ぐために患者さんには、包括的呼吸リハビリテーションにより適切な呼吸法や排痰法を覚えていただく必要があります。
- 具体的にはどういう治療なのでしょうか。
- 適切な呼吸法とは、胸式ではなく腹式呼吸です。これは息を吸うときにお腹を膨らませることにより、横隔膜や肋間筋などの呼吸筋を補助し疲労しにくくし、息を吐くときは口をすぼめてゆっくりはき、末梢気道が虚脱するのを防ぎます。また体位や補助器具により適切な排痰法を身につけることで、二次感染予防や肺への空気の出入りを保つことが可能となります。
- 日常生活でのポイントは。
- 抵抗力や筋力をつけるために、高カロリー、高たんぱく、高ビタミンの食事に心がけてください。一度にあまり食べられない場合は、日に5、6回に分けて食べてもかまいません。また、呼吸筋を鍛えたり、補助したりする意味で腹筋や上肢の筋力トレーニングやウォーキングによる下肢の訓練も重要とされています。
- その他注意することは?
- 急激に呼吸困難が悪化して病院での治療が必要となる「急性増悪」が、COPD患者さんにしばしば起こります。ひとたび急性増悪を起こすと、呼吸不全におちいり肺炎や心不全を併発し命に関わることもあります。治療により生命の危険を回避しても、呼吸機能は以前より確実に低下し、これがきっかけで寝たきりになってしまうこともあります。急性増悪のきっかけの約3分の2は、インフルエンザやかぜなどの呼吸器感染症です。これを防ぐため、うがいや手洗い、人混みをさけるなど一般的なかぜ対策はもちろんのこと、医師の指示に従って、定期的な予防接種を受けるようにしてください。
- 予防や早期発見が重要な病気ですね。
- はい、生活習慣病と同様に、将来生命に関わる合併症を防ぐために、定期的な検査と重症度に応じた適切な治療が重要です。とくに喫煙者で咳、痰、息切れが気になる40歳以上の方は、速やかに、そして定期的にスパイロ検査を受けることをお勧めします。COPDは放置しておくと重症化しますが、早い段階で見つかり、正しい治療を受ければ、病気の進行を抑え、ほとんど健康な方と同じような生活を送れます。逆に重症化すると非常に苦しいつらい病気ですから、主原因のタバコを吸われている方は、ぜひ禁煙により肺の生活習慣病であるCOPDを予防してください。