長引く咳について Q&A
3週間以上にわたり長引く咳を遷延性咳嗽さらに8週間以上続く咳を慢性咳嗽と呼びます。
- 風邪や急性気管支炎とはまた違うのですか
- 風邪や急性気管支炎は原因のほとんどがウイルスや細菌ですが、通常1週間から2週間で治ってしまうのが普通です。胸部レントゲンに異常なく、一般採血検査を行っても異常がないことが多いです。
- どういう病気が原因なのでしょうか
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多い順番でいうと、喘息の一種である咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症が四大原因とされます。この他、タバコによる気管支炎、感染後咳嗽として百日咳、マイコプラズマ感染、クラミジア感染後に咳が長引くことがあります。頻度は少なくなりますが、気管支異物、一部の降圧薬の副作用、心因性咳嗽なども原因になることがあります。
咳喘息
- 四大原因があるということですが、まず、咳喘息という病気ですが、これは喘息のように苦しくなったりするのでしょうか。
- いいえ、咳込みが続いて苦しくなったりすることはありますが、典型的な喘息発作のような呼吸困難は起きません。喘息発作では、気管支のアレルギー性炎症に伴い気管支が痙攣して縮んでしまい酸素不足で息苦しくなります。一方、咳喘息の場合、気管支が痙攣する手前の気道過敏性が亢進した状態のために咳が起こりやすく、長引きやすくなります。
- 咳喘息はどういう方がなりやすいのでしょうか。
- まず、アレルギー体質のある方です。具体的にはアレルギー性鼻炎や花粉症あるいはアトピー性皮膚炎のある方が発症しやすいです。こういった方に、アレルギー性の気道炎症が起こると、しばしば炎症が慢性化し咳が長引くことになります。
- 症状には何か特徴がありますか
- 通常、咳は痰をほとんど伴わず、早朝や夜間に多くでます。気管支は様々な刺激に対して過敏になっており、冷たい空気にあたったり、電話で話をしたり、運動をしたりすると咳が出やすくなります。咳喘息は成人女性に多く、経過を追うと約3割に喘鳴が出現し、喘息に移行します。
- 診断のための検査はありますか
- 簡便な検査としては、アレルギーを調べるための血液検査と痰の検査があります。血液検査では、ハウスダストやダニなどの各種アレルゲンに対する抗体検査があります。これは皮膚に傷をつけてアレルゲンを滴らして発赤反応を見る皮膚テストでも代用できます。痰の検査で白血球の一種である好酸球という成分を認めると、気管支にアレルギー性炎症が起こっている証拠となります。また気道過敏性を見る検査としては、アストグラフという検査があり、気道収縮薬を低い濃度から吸入し、気道収縮反応をチェックします。
- 治療はどうするのでしょうか
- 風邪薬で使われる咳止めはほとんど効きませんが、気管支喘息に準じた治療を行うと効果的です。つまり気道過敏性亢進による咳に対しては気管支拡張薬が有効であり、その大元の原因の気道炎症を抑えるためにステロイド薬や抗アレルギー薬を併用すると、大抵の場合1週間以内で良くなってきます。
アトピー咳嗽
- 続いてアトピー咳嗽についてお聞きします。アトピーということはこの病気もアレルギーが関係するのでしょうか。
- はい、アレルギーやアトピーとはギリシャ語由来の医学用語ですが、現在ではいずれも「生体内での免疫の過剰反応」と解釈されており、アトピー咳嗽もアレルギー性疾患のひとつです。
- では、先ほどのアレルギー体質の方に起こり易い咳喘息とはどう違うのでしょうか。
- 基本病態である気道のアレルギー性炎症に変わりはありませんが、アトピー咳嗽では気道過敏性の亢進状態はありません。アトピー咳嗽で咳が出る機序は、咳反射が亢進しているためです。
- 検査としてはどういうことをするのですか。
- 検査項目は咳喘息の場合と同じで、アレルギー体質、アレルギー性気道炎症に関する検査は、アトピー咳嗽ではいずれも陽性ですが、気道過敏性テストに関しては、咳喘息とは異なり陰性を示します。
- そうすると治療も咳喘息とは異なるのですか
- はい、アトピー咳嗽では咳喘息で有効な気管支拡張薬が無効であり、咳止めとして抗ヒスタミン薬を用います。これに気道炎症を抑えるステロイド薬を併用するとさらに効果的です。
副鼻腔気管支症候群
- 3つ目の副鼻腔気管支症候群とは、どのような病気でしょうか。
- 気道粘膜にある線毛上皮細胞の働きが悪いために、副鼻腔や気管支に付着した異物や病原菌を鼻汁や痰として排出する能力が低く、副鼻腔や気管支に慢性感染を起こしやすい病気です。
- どのようにして診断されますか。
- 黄色や緑色の膿性痰を伴う慢性咳嗽を認め、副鼻腔X線で副鼻腔炎や喀痰細菌検査で肺炎球菌やインフルエンザ菌などの病原菌を認めれば、副鼻腔気管支症候群と診断されます。
- 治療はどうするのでしょうか。
- 14、15員環マクロライド系という抗生物質を数週間服用することにより軽快してきます。気管支拡張薬や去痰薬を併用するとより効果的です。
胃食道逆流症
- 4つ目として胃食道逆流症ですが、胃と食道の病気がなぜ咳の原因となるのでしょうか。
- この病気は、胃液が胃の上部に逆流し食道さらには咽喉頭、気管支に慢性炎症を引き起こし長引く咳の原因となります。
- 診断と治療法はどうなりますか。
- 肥満、胃十二指腸潰瘍、大酒家、高齢者などの胃食道逆流症の危険因子を有する方に慢性咳嗽と胸やけを認めた場合、胃内視鏡検査を行い逆流性食道炎の所見と咽喉頭の炎症所見を認めれば、胃食道逆流症が疑われ、制酸薬の投与により症状が改善すれば胃食道逆流症と考えられます。
- 慢性咳嗽の四大原因のほかの原因としてはどのようなものがありますか。
- 咳は痰を伴わないいわゆる「空咳」を乾性咳嗽、痰を伴う咳を湿性咳嗽と分類します。乾性咳嗽の原因として、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症の3つがほとんどを占めますが、これ以外には、感染後咳嗽といって風邪や気管支炎後に空咳が長引くことがあります。また降圧薬の一種でACE阻害薬とβブロッカーの副作用として空咳を認めることがあります。検査でまったく異常を認めず、ストレスや不安が原因の心因性咳嗽もまれに認めます。
- それぞれの治療法はありますか。
- 感染後咳嗽は抗菌薬の有効率は半分程度ですが、一般の咳止めで徐々に改善します。なかなか改善しない場合は、咳喘息やアトピー咳嗽との鑑別が必要です。降圧薬の副作用に関しては該当する薬剤を中止することで改善します。心因性咳嗽には安定剤が有効です。
- 痰を伴う湿性咳嗽の原因はいかがでしょうか。
- 四大原因の副鼻腔気管支症候群が慢性湿性咳嗽の最大の原因ですが、この他にはタバコによる慢性気管支炎があります。治療はまず禁煙ですが、症状の軽減には気管支拡張薬や去痰薬、抗菌薬などを併用します。
- 咳が長引く場合の注意点について教えてください。
- 3週間以上長引く咳の原因は、以上の4つの病気で約8割を占めますが、咳という症状は、ありふれた症状であり、「そのうち治るから大丈夫」、「タバコのせいまたは年のせいで仕方がない」というように、重要視されず放置されがちです。しかし、慢性咳嗽の原因は多岐にわたり、残りの2割の中には太い気管支にできた肺がんや心臓病による咳が隠れている場合もありますので、長引く咳は放置せず、早めに呼吸器科などの専門医を受診し、検査を受けることをお勧めします。