睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、その名の通り睡眠時に呼吸が止まり、それが原因で日常の生活に様々な障害を引き起こす疾患です。
- 無呼吸は鼻腔および口のレベルでの10秒以上の気流停止とする
- SASは7時間の睡眠中に少なくとも30回(1時間に5回以上)の無呼吸がREM睡眠期だけでなくnon-REM睡眠期にも認められるときに診断される。
*1976年にスタンフォード大学ギルミノー教授により提唱されましたが、現在は上記のほかに気流低下をきたす低呼吸や酸素飽和度の低下および日中眠気などの自覚症状も診断基準に含まれるようになってきました。
原因:ほとんどが睡眠時の上気道狭窄~閉塞(下図)
- 肥満→舌咽頭軟部組織の脂肪沈着→気道内腔狭小化
舌、軟口蓋の重量増加→重力で沈下→気道閉塞 - 顎顔面(顔面頭蓋)形態異常:小下顎症、下顎後退症、短頚、舌肥大症
*遺伝、人種差などが関与します。 - 鼻疾患:鼻ポリープ、鼻中隔彎曲症
- 口蓋咽頭病変:軟口蓋下垂、アデノイド過形成症、口蓋扁桃肥大
- 機能的異常:上気道拡張筋(オトガイ舌筋、口蓋帆張筋など)の弛緩
*脳血管障害、脊髄小脳変性症、神経筋疾患などが原因です。
健康な人の気道 | SAS患者さんの気道閉塞 |
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眠っている時は重力の影響で、軟口蓋、舌根、咽頭蓋が下がり、気道は狭くなります。 | 鼻や喉に何か異常があると慢性的に気道が狭くなり、時には気道が塞がり呼吸をしにくくなります。 |
症状
- 日中の著しい眠気、居眠り、過眠
- いびき、無呼吸の指摘
- 窒息感、あえぎ呼吸
- 倦怠感
- 睡眠時の激しい体動
- 寝汗
- 熟睡感の欠如、慢性的な寝不足感
- 早朝の頭痛
- 頻回の覚醒と排尿
- インポテンツ
- 集中力低下
- 性格の変化(切れやすくなる)
- 不眠(中途覚醒型)
社会的影響
- 交通事故の増加
- 労働災害の増加
- 仕事効率、生産性の低下
個人的影響
- 二次性高血圧
- 肥満をベースとした生活習慣病の増加
- 糖尿病
- 心血管合併症の増加
診断
簡易診断(簡易型ポリグラフ)
*簡易型ポリグラフは自宅で検査できます。
終夜睡眠ポリグラフィーPSG:Polysomnography
- 呼吸に関するパラメータ
- 口鼻気流air flow
- 気管音(いびき)
- 胸部呼吸(胸壁運動)
- 腹部呼吸(腹壁運動)
- 酸素飽和度
- 睡眠に関するパラメータ
- 脳波
- 筋電図(眼球運動、オトガイ筋、前頸骨筋)
- 循環に関するパラメータ
- 心電図
- 体位に関するパラメータ
- 体位センサー
- 暗視カメラ
*ポリグラフィー検査により、睡眠中の無呼吸、低呼吸の回数(頻度)とパターン、低酸素状態の有無さらに睡眠の質(PSGのみ)を調べ、SASの有無と重症度を診断します。
治療
1)経鼻的持続陽圧呼吸療法CPAP:Continuous Positive Airway Pressure
*睡眠時に閉塞し易い上気道を空気圧で押し拡げ、空気の通りを良くして、いびき・無呼吸を防ぎます。現在、中等症~重症SASではもっとも有効な治療法です。
適応:日本では無呼吸低呼吸指数(AHI)20回/時で自覚症状が強く、PSG上、睡眠の分断化、深睡眠著減などを認め、CPAPにより改善を得られる方が保険診療の適用となります。
2)歯科治療
口腔内装具OA:Oral Appliance
*口腔内装具すなわち下顎を前方に固定するマウスピースを作製し、上気道のスペースを拡げる治療法です。中等症以下の方に有効であり、2004年4月から保険適用となっています。
3)手術療法
<上咽頭>
レーザーによる口蓋垂形成術(LAUP:Laser Assisted Uvuloplasty)
アデノイド切除術
<中咽頭>
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP:Uvulopalatopharyngoplasty)
口蓋扁桃摘出術(Tonsillectomy)
<下咽頭>
舌根正中部切除術(MLG:midline laser glossectomy)
<鼻内>
鼻中隔彎曲矯正術
下鼻甲介切除術
鼻ポリープ(鼻茸)切除術
*手術は主に耳鼻科で扁桃肥大など明らかな原因のある方に対して行いますが、多くのSAS症例は肥満による咽頭全体の狭窄~閉塞が原因のため、手術の適応例はごく少数です。